ガレージキットのコレクション

突き付けられた公正取引委員会は一九八八年五月、基地の談合に加わったとされる百四十社を独占禁止法違反で摘発し、そのうちの七十社に合計三億円の課徴金を課した。 摘発の対象も空前の規模なら、課徴金も過去最高となった。
こうした摘発に踏み切った裏には、外圧のほかに、談合そのものが目に余るほど横行していたからとされる。 談合につながる業者間の情報交換を広範に認めた公正取引委員会は、みずからまいた種を、外圧をうけて刈り取ったわけだ。
委員会だけを批判するのは公平さを欠くことになる。 まず批判されるべきは建設業界であり、業界と一心同体で建設省に強い影響力をもつ自民党の建設族だからだ。
この事件は談合によっていかに税金がむだ使いされているかをうかがわせた。 米国は公正取引委員会が摘発したのを見届けてから、基地の談合組織とされた「星友会」の加盟百四十社を相手に五十億円にのぼる損害賠償を要求した。
日本側ははじめ抵抗をみせたが、一九八九年十一月二十二日、「星友会」参加の建設大手など九十九社が総額四十七億円の和解金を支払うことに同意してこの問題は一応決着した。 米国側が談合の証拠を握っていることから、交渉の日本側のまとめ役だった里見泰男大成建設社長らは、支払うカネの性格を賠償金から和解金にすることに精力をそそいだといわれる。

賠償金では税金がかかる恐れがあるが、和解金では税法上は損金で落とせるという重大な違いがある。 また、賠償金として支払えば「談合でもうけている」と受け取られることを警戒したためでもあるという。
名前がどう変わろうと、この巨額の支払いは、「談合はもうかる」というイメージをあらためて世論に印象づけたことは否めない。 横須賀基地の談合をめぐる損害賠償だけでこれだけの金額になる。
この事件の顛末は、日本全土でおこなわれる膨大な量の公共工事に、こうした談合がおこなわれていれば、とてつもなく巨額の国民の税金がどこかに消えているという疑惑を国民の間に植えつけた。 こうした疑惑を証明するような裁判の判決が、「星友会」事件が一件落着した翌月の十二月十八日に水戸地方裁判所で下された。
判決は、茨城県が一九七九年に発注した同県谷田川の俊渓工事をめぐる三建設会社の談合罪容疑事件をめぐるもので、三社の責任者三人に懲役八カ月、執行猶予八カ月の有罪を言い渡した。 刑法の談合罪で建設業者が起訴されるのもまれだが、この事件が衝撃的だったのは、裁判所が独自の積算を示し、落札価格そのものが高すぎたと断定したことだ。
裁判所は、県と業者が見積合わせをして決めた発注価格の一億千五十万円は、通常の利益をふくんだ価格より少なくとも一割高いと断じた。 裁判所は「公正な価格は上限九千五百万円、下限七千六百万円である」という専門家の計算を引用して、適正な価格の一四%から三一%もの余分のもうけが隠されていた可能性を示した。
長年にわたり、高すぎるのではないかと疑問をもたれていた役所の積算価格が、たとえ一例といえども証明されたかたちになった衝撃は大きかった。 一例といったが、証拠の収集がむずかしい刑法の談合罪の容疑で起訴されるケースはまれなのだ。
「埼玉土曜会」事件自民党建設族、建設業界、建設省という「鉄とコンクリート」の三角地帯が、米国という外圧などものともしない健在ぶりをあらためて示したのは、「埼玉土曜会」事件だろう。 大手建設六十六社で組織するこの会が埼玉県でおこなわれる公共事業を談合で分けあっていた容疑にかんし、公正取引委員会が関係社の立ち入り検査を始めたのが一九九一年五月。
この調査で一九八八年四月から検査を受けて「埼玉土曜会」が解散した一九九一年六月十日までに、六十六件、総額八百二十億円の工事を談合で取り仕切っていたことが突き止められた。 この過程で、県の発注予定にきわめて通じている人物の存在や国会議員の介在の疑いも浮かび上がり、疑獄事件の様相をおびていた。

公正取引委員会は、関係者の刑事告発をねらい、同委員会としては異例の規模の態勢で捜査をすすめた。 委員会はこれほどの規模のものはもう集まらないとされるほどの証拠書類や関係者の証言を入手したとされる。
審査が大詰めを迎えると、強力な政治的圧力のうわさが飛び交い、一九九二年五月十五日に、委員会は事件を検事総長に告発することを断念した、と正式に発表した。 中央政界では、田中角栄時代にあからさまになったが、自民党の最大派閥が最大の利権ポストといわれる建設大臣のイスをほぼ独占するようになり、自民党の建設族が党内で大きな影響力をふるってきた。
弱小派閥出身の中曽根も政権の基盤が固まると三代にわたって自派の議員を建設大臣に任命した。 竹下登元首相、金丸信前自民党副総裁、小沢一郎元自民党幹事長ら政界の新旧実力者はすべて建設族であり、一九九二年末に分裂した創政会(竹下派)がこれら実力者の牙城であったことは、建設業の支配こそ政治力の源泉であることの象徴である。
この分裂に先立って金丸が東京佐川急便から五億円の政治献金を受けたことが明らかになり、議員辞職に追い込まれた。 そのとき、最大の陰の調整者とされた金丸を失い、建設省や建設業界があわてたことは記憶にあたらしい。
また、自民党の建設族、全国津々浦々に網を張る建設業界、建設省のトリオこそ、緊密な政官財の癒着構造のなかでも最強・最大の勢力を形づくっていることを裏付けている。 新聞の地方版には、新聞社の支局やテレビ局への情報どおりの建設業者が落札する公共工事の入札記事が日常茶飯事のように載っている。
税金から巨額で不当な利益をかすめ取り、政官財の癒着を強める談合が減ったとはだれも信じていないだろう。 日本株式会社一九八○年代、中曽根政権の旗振りで吹き荒れた建設省の都市計画法、建築基準法などをめぐる規制緩和の嵐も、この最強の政官財の癒着構造の存在を抜きにしては考えられない。
都市を標的とした規制緩和大コーラスは、中曽根政権誕生のはるか以前から次第に音量を高めていたことはすでに見た。 むしろ、当時の状況からすれば、中曽根はこの癒着構造を中心とした日本株式会社のシナリオを、派手なパフォーマンスで演じただけという見方さえできよう。
日本株式会社の土地の値上りを重要なエネルギー源とする「花見酒の経済」の病はそれほど進行していたのだ。 その証拠に、バブルがはじけてみれば、巨額の不動産向け融資の焦げつきで、大蔵省の手厚い保護を受けてきた銀行業界も空前の危機に陥り、一九九二年ごろから顕著になってきた不況を長引かせる最大の原因のひとつになっている。
市民の手からまともな住宅を遠ざけ、入手しても巨額の住宅ローンに一生苦しむ構造を残し、都市や自然を破壊したバブルの犯人は、この政官財の癒着を核にした日本株式会社だった。 バブルの時代の頂点に座っていたのは都市銀行の会長や頭取であり、超一流企業の会長や社長であり、建設族を中心にした自民党の首脳であり、建設省のトップだった。

この時代に、戦後の長い年月、家庭生活を犠牲にして働き続けて来た市民とその家族たちの、働きにみあう快適な生活という夢は吹き飛ばされた。

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